法人化の節税シミュレーション|年収別に税金を比較し計算する手順
- 法人化の節税シミュレーションは、個人事業の税額と法人の税額を同じ年収で比較して差額を出す作業である。
- 節税目的での法人化は、課税所得がおおむね800万円を超えるあたりから検討の価値が出る。
- 法人は赤字でも住民税の均等割(最低7万円)がかかるため、節税額だけで判断すると損をすることがある。
- 役員報酬・家族への給与分散・退職金制度を組み合わせると、手取りベースの効果はさらに大きくなる。
- 設立費用や社会保険の会社負担分を含めたトータルで比べないと、正確な判断はできない。
法人化の節税シミュレーションとは?計算の仕組みを知る

法人化の節税シミュレーションとは、同じ年収を「個人事業主のまま」と「法人化した場合」で計算し、税金と社会保険の合計差額を出す試算のことです。
私が最初につまずいたのは、個人と法人で「かかる税金の種類そのものが違う」という点だった。ここを押さえないと比較の土台が作れない。
法人化で節税できる仕組み
法人化で節税できる最大の理由は、所得税の累進課税と法人税の比較的フラットな税率の差にある。
個人事業の所得税は、課税所得が増えるほど税率が上がる累進課税で、最高45%まで上がる。住民税10%を足すと最大55%だ。
一方、法人にかかる法人税の税率は資本金1億円以下の中小法人で、所得800万円以下の部分が15%、800万円超の部分が23.2%。この差が大きい。
さらに、自分に「役員報酬」という形で給与を払うと、その給与に給与所得控除が使える。会社の利益と個人の給与に所得を分けられる。ここが個人事業には無い節税の入り口だ。
所得税・住民税・法人税の計算の考え方
税額の計算は「個人=所得税+住民税+個人事業税」、「法人=法人税+法人住民税+法人事業税+(役員報酬にかかる所得税・住民税)」という二段構えで考える。
個人事業主は、事業所得からそのまま所得税と住民税が計算される。所得税の税率は下の通り。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
法人化すると、会社の利益には法人税が、自分が受け取る役員報酬には所得税・住民税がかかる。所得を「会社」と「個人」に割り振れるので、累進のピークを削れる。これが計算上の肝だ。
節税目的の法人化は所得800万円が目安
節税だけを目的にするなら、課税所得800万円あたりが法人化を検討する目安になる。
理由はシンプルで、法人税の軽減税率15%が使える上限が所得800万円だからだ。個人の所得税はこのあたりで税率23〜33%に達し、法人の方が有利になりやすい。
【手順】法人化の節税額を自分で試算する3ステップ
法人化の節税額は、収入入力→税金比較→社会保険を含めた手取り確認、の3ステップで試算できる。
所要時間はおよそ15〜30分。難易度はやさしめ。手元に用意するのは、直近の確定申告書(所得金額と経費が分かるもの)と、電卓かシミュレーションツールだけでいい。
ステップ1:収入・所得の状況を入力する
最初に、年間の売上と経費、そこから出る「所得」を入力する。
例えば売上1,200万円、経費400万円なら所得は800万円。ここに青色申告特別控除65万円や各種所得控除(基礎・社会保険料など)を反映して課税所得を出す。
ここまでできていれば正しい:確定申告書の「所得金額等」の欄と、入力した所得がほぼ一致していればOK。ズレるときは、経費の入れ忘れか控除の重複を疑う。
ステップ2:個人事業主と法人の税金を比較する
次に、同じ所得を「個人のまま」と「法人化して役員報酬を設定」の2パターンで税額計算する。
法人パターンでは、まず役員報酬をいくらにするかを決める。仮に所得800万円のうち600万円を役員報酬、残り200万円を会社利益とすると、個人側は給与所得控除が効き、会社側は200万円に軽減税率15%がかかる。
うまくいかないときは:役員報酬を高くしすぎると個人の所得税・社会保険料が増え、法人化のうまみが消える。報酬額を2〜3パターン変えて、合計税額が一番小さい点を探すのがコツだ。
ステップ3:社会保険料を含めて手取りを確認する
最後に、税金だけでなく社会保険料まで足して「手取り」で比べる。ここを飛ばすと判断を間違える。
法人化すると社会保険(厚生年金・健康保険)が原則強制加入になり、会社負担分と個人負担分の両方がかかる。私の会社でも、ここが一番のコスト増だった。
【年収別】個人事業主と法人の税金比較シミュレーション
年収の水準によって、法人化が有利になるかどうかは明確に変わる。目安として、所得500万円台では効果は薄く、800万円を超えると差が広がる。
ここでは考え方の骨格を示す。実額は控除や役員報酬の設定で動くので、方向性をつかむために読んでほしい。
年収500万円の場合
所得500万円クラスでは、法人化の節税メリットはほとんど出ないか、むしろマイナスになりやすい。
個人の課税所得500万円なら所得税率は20%の帯。法人にしても社会保険の会社負担分と法人住民税均等割がのしかかり、節税分を食う。正直、この水準では私は法人化を勧めない。
年収800万円の場合
所得800万円になると、法人化で税負担を軽くできる余地がはっきり出てくる。
会社利益と役員報酬に所得を分散できるため、個人だけで受けるより累進のピークを抑えられる。法人税の軽減税率15%が使える上限とも重なり、税率面の相性がいい。
シミュレーションの前提条件と限界
どんなシミュレーションも、前提条件を置いた「試算」でしかない点は押さえておきたい。
前提として置くのは、経費率・所得控除の額・役員報酬の設定・扶養家族の有無など。これらが変われば結果も変わる。特に社会保険料は報酬額に連動するので、報酬設計を変えると節税額が大きく動く。
だからツールの数字を鵜呑みにせず、自分の控除を正確に入れ、最終判断は税理士に一度確認する。ここは手を抜くと数十万円の読み違いになる。
法人化のメリット・デメリットを整理する

法人化のメリットは節税と信用の向上、デメリットはコストと事務負担の増加で、正直この両者は非対称だ。
きれいに同数で並べたい気持ちは分かるが、実務ではデメリット側(固定費と手間)の方が体感の重みは大きい。だからこそ節税額がそれを上回るかを見る。
法人化のメリット
- 役員報酬に給与所得控除が使え、所得を会社と個人に分散できる。
- 法人税の軽減税率15%(所得800万円以下)が使える。
- 退職金制度・出張日当など、個人事業では使いにくい経費・非課税の枠が広がる。
- 取引先や金融機関からの信用が上がり、融資や大口契約で有利になりやすい。
法人化のデメリット
- 赤字でも法人住民税の均等割(最低7万円)がかかる。
- 社会保険への加入が原則強制で、会社負担分のコストが増える。
- 設立費用や毎年の税理士報酬など、固定コストが発生する。
- 会計・税務が複雑になり、決算・申告の手間が確実に増える。
個人事業主と法人代表者の社会保険の違い
個人事業主は国民健康保険と国民年金、法人代表者は健康保険と厚生年金という違いがあり、負担の仕組みが根本から変わる。
法人の社会保険は、会社と個人が折半で負担する。将来の年金額は厚生年金の方が手厚くなる一方、目先の保険料負担は増える。ここは「損」と見るか「積み立て」と見るかで評価が分かれる。
節税額に含めたい初期費用と維持コストの実額
法人化の判断は、節税額から「設立費用+毎年の維持コスト」を差し引いた純額で行うべきだ。
競合記事はここが薄い。だが実際に払うのはこの固定費であり、私が一番読み違えたのもここだった。具体額を押さえておく。
設立費用・登記コスト・専門家報酬
株式会社の設立には、登録免許税が最低15万円かかる(資本金の0.7%と比較して高い方)。
合同会社なら登録免許税は最低6万円で、株式会社より安い。定款認証も不要だ。マイクロ法人や一人法人なら、合同会社で十分なことが多い。私も新設するなら合同会社を選ぶ。
これに加え、毎年の税理士報酬や決算申告費用といった専門家報酬が維持コストとして乗る。金額は契約内容で幅があるため、複数の事務所に見積もりを取って比べてほしい。
赤字でもかかる住民税と社会保険会社負担分
法人化の最大の固定リスクは、利益が出ていなくても払い続けるコストだ。
法人住民税の均等割は、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の法人で年7万円が最低ライン(都道府県分+市町村分)。赤字でもこれは消えない。
さらに社会保険の会社負担分。役員報酬を出す以上、会社側の負担が毎月発生する。節税額の試算では、この2つを必ずマイナス項目として入れる。
経理・税務調査など実務負担の増加
法人は複式簿記による決算書作成が必須で、個人事業より帳簿の精度が求められる。
役員報酬は原則、期の途中で自由に変えられない(定期同額給与のルール)。決めた額を1年間払い続ける前提で設計する必要がある。ここを知らずに設定を誤ると、損金にならず余計な税金がかかる。
税務調査の対象になる可能性も、個人時代より意識する場面が増える。日々の記帳と証憑保管を怠らないことが、結局は一番の防御になる。
手取りを最大化する法人化後の節税スキーム
法人化後の手取りは、役員報酬の最適化・家族への給与分散・退職金制度の3つを組み合わせると大きく伸ばせる。
法人化はゴールではなくスタート。ここからの設計で、同じ利益でも手取りは変わる。私が実際に効いたと感じた順に書く。
役員報酬の最適な設定方法
役員報酬は「会社の法人税」と「個人の所得税・社会保険料」の合計が最小になる額に設定するのが基本だ。
報酬を上げすぎると個人側の負担が増え、下げすぎると会社に利益が残って法人税が増える。所得を会社と個人でどう割るかがすべて。複数パターンを試算して谷を探す作業になる。
注意したいのは、報酬は期首から3か月以内に決めて1年間固定するのが原則という点。「儲かったから期の途中で増やす」はできないと考えておく。
家族への給与分散による所得分散
家族を役員や従業員にして給与を払うと、一人に集中した所得を分散でき、世帯全体の税負担を下げられる。
配偶者に給与を払えば、その分は会社の経費になり、個人側では給与所得控除が使える。ただし「実際に働いている実態」と「相場に合った金額」が絶対条件だ。名前だけの給与は税務調査で否認される。
