役員報酬変更の議事録と株主総会|書き方・ひな形・注意点を解説

理由はシンプルで、会社法361条が「取締役の報酬は定款か株主総会の決議で定める」と決めているからです。ここを外すと、税務上の損金算入が否認されて追徴課税に直結することがあります。
この記事で分かること。決議から議事録作成、税務署や自治体への届出、社会保険の月額変更届までの手順。議事録のひな形と書き方。3か月ルールや損金算入の要件。そして変更で税金と社会保険料がいくら動くかの独自試算です。
私自身、自分の会社で役員報酬をいじってきました。正直、最初は議事録を軽く見ていて痛い目を見かけました。その経験も交えて書きます。書き手は中小企業の経営者・若月です。
役員報酬の変更は株主総会の決議が原則

まず大前提。役員報酬を変えるなら、原則として株主総会で決議します。会社法361条1項が、取締役の報酬等は定款または株主総会の決議で定めると規定しているからです。

なぜ株主総会での決議が必要なのか
役員報酬は、取締役が自分で自分の取り分を決められると「お手盛り」になりかねない。これを防ぐため、会社の所有者である株主が決める仕組みになっています。
実務では、取締役一人ひとりの金額ではなく「報酬総額」や「算定方法」を株主総会で決める運用が広く行われています。会社法361条が定める報酬等の額が株主総会決議事項だからです。
取締役会で決議できるケース
全部が株主総会で完結するわけではありません。取締役会設置会社では、株主総会で総額の枠を決め、その枠内で各取締役への配分を取締役会で決める運用が一般的です。
この場合、株主総会と取締役会の両方で議事録を残します。総額決議と配分決議、それぞれ証拠を残しておかないと、後から「いくらで合意したのか」が説明できなくなります。
1人会社や株主が複数いる場合の進め方
私の会社のような1人会社、つまり株主も取締役も自分ひとりというケース。形式上「株主総会を開く相手が自分しかいない」のですが、それでも議事録は必要です。会社法318条1項が議事録の作成義務を課しているためです。
株主が複数いる場合は注意が要ります。役員報酬を受け取る本人が株主でもあるとき、その人は決議で特別利害関係人になりうる。利益相反にならないよう、決議の経過を議事録にきちんと残してください。
取締役会設置会社と非設置会社の違い
取締役会の有無で決め方が変わります。整理しておきます。
| 区分 | 総額の決定 | 各人の配分 | 必要な議事録 |
|---|---|---|---|
| 取締役会設置会社 | 株主総会で総額決議 | 取締役会で配分決議 | 株主総会+取締役会の両方 |
| 取締役会非設置会社 | 株主総会で決議 | 株主総会で決定(または取締役の協議) | 株主総会議事録 |
| 1人会社 | 株主総会(実質本人)で決議 | 本人が決定 | 株主総会議事録 |
なお監査役の報酬も、定款または株主総会の決議で定める仕組みです。会社法387条がこれを規定しています。取締役の報酬とは別枠で決議する点に注意してください。
役員報酬変更の手続きの流れ
ここからは実務の手順です。私が毎年やっている流れに沿って、決議から届出まで3ステップで説明します。税務の3か月ルールがあるので、多くの会社は定時株主総会のタイミングで処理しています。

手順1:株主総会で決議する
最初に株主総会を開いて、変更後の報酬額を決議します。事業年度開始の日から3か月以内に決めるのが鉄則。4月1日開始の会社なら、原則6月30日までです。
私は3月決算なので、毎年5月後半に定時株主総会で報酬の改定を決議しています。決算の数字を見てから決められるので、このタイミングが一番やりやすい。
手順2:株主総会議事録を作成して保管する
決議したら議事録を作ります。これは義務です。会社法318条1項により、株主総会の議事については議事録を作成しなければなりません。
議事録は本店に10年間備え置く必要があります。後述しますが、変更前・変更後・変更理由・適用開始日を具体的に書いておくと、税務調査で効いてきます。
手順3:税務署・自治体へ届出を行う
正直に言うと、定期同額給与の改定そのものに専用の届出書はありません。改定後の金額を給与計算と源泉徴収に反映させるのが基本です。
ただし役員賞与(事前確定届出給与)を新設・変更する場合は、別途「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署に出す必要があります。これを忘れると賞与が全額損金不算入になる。ここは要注意です。
社会保険のほうも連動します。報酬を大きく変えると標準報酬月額が変わるため、随時改定の対象になれば「月額変更届」を年金事務所へ提出します。詳しくは試算のセクションで触れます。
定款で役員報酬を定めている場合の変更手続き
もし定款に役員報酬の具体的な金額を書いているなら、変更手続きが重くなります。報酬額を変えるたびに定款変更が必要になり、定款変更は株主総会の特別決議(原則3分の2以上の賛成)が要るからです。
私の見解では、定款に金額を書き込むのはおすすめしません。総額の枠だけ株主総会の普通決議で決められるようにしておけば、毎年の変更が普通決議の議事録だけで済みます。身軽です。
役員報酬変更の議事録の書き方とひな形
議事録は形式が決まっています。会社法318条と会社法施行規則の記載事項に沿えば大丈夫。ここではそのまま使える要素を示します。

議事録に必ず記載する事項
法定の記載事項は次のとおりです。会社法施行規則で定められています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開催日時・場所 | 総会を開いた日付・時刻と場所 |
| 議事の経過の要領と結果 | 審議の流れと決議の結果 |
| 出席役員 | 出席した取締役・監査役など |
| 議長・議事録作成者 | 議長と議事録を作った人の氏名 |
| 議案 | 役員報酬の変更に関する議案の内容 |
これに加えて、税務・実務上は「変更前の金額」「変更後の金額」「変更理由」「適用開始日」を具体的に書くのが重要です。これは法定事項ではありませんが、定期同額給与の要件を満たした証拠になります。
報酬を変更する場合・しない場合のひな形
変更する場合の議案文の核は、こんな形です。「取締役Aの報酬を月額○○円から月額○○円に変更し、令和○年○月支給分から適用する件」。これを議事録の議案として記載します。
据え置く場合も議事録を残します。議案文は「取締役の報酬を前事業年度と同額(月額○○円)で継続する件」。後で「なぜ同額なのか」を聞かれても答えられます。
そのまま使えるひな形(Wordファイル)が公開されています。下のリンクから取得できます。
1人会社の場合のひな形
1人会社でも構成は同じです。出席株主は本人ひとり、議長も本人、議事録作成者も本人。「議長は、取締役Aの報酬を月額○○円とする旨を諮ったところ、満場一致で承認可決された」と書きます。
形式的でも、この一枚があるかないかで税務調査の空気が変わります。私はここを面倒くさがってサボった年があり、後悔しました。今は決議のたびに必ず作っています。
電子化・電子署名と押印の取扱い・保管期間
議事録は紙でも電子データでも作れます。会社法318条1項が、書面または電磁的記録での作成を認めているからです。電子で作るなら電子署名で対応できます。
押印について。法律上、株主総会議事録への押印は必須ではありません。ただし実務では議長や出席者の押印(認印で足りることが多い)を入れて、証拠力を高める運用が広く行われています。
保管期間は本店で10年。これは会社法の備置義務に基づきます。電子化しても保管義務はなくならないので、消さずに残してください。
役員報酬を変更する際の税務上の注意点

ここが一番こわいところ。手続きを間違えると損金算入が否認されて法人税が増えます。役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当しないと損金にならないからです。

3か月ルールと起算日・損金算入の要件
定期同額給与は、支給時期が1か月以下ごとで、各支給額が同額の給与を指します。その金額改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う必要があります。
起算日は事業年度開始の日。4月1日開始なら6月30日まで。これを1日でも過ぎて増額すると、増額分が定期同額給与と認められず、損金不算入になる恐れがあります。
年度途中の変更制限と遡及増額の禁止
3か月を過ぎた後の年度途中の自由な増額は、原則できません。期の途中で「やっぱり上げる」とやると、その差額が損金から外れます。
遡及的な増額も禁止です。たとえば10月に「4月分から増額していたことにする」は通りません。定期同額給与は各支給時期の額が同額であることが前提だからです。後付けは効きません。
業績悪化改定事由による減額の判断基準
減額には例外があります。「業績悪化改定事由」に当たれば、期の途中でも減額が認められます。経営が苦しいときの命綱です。
ただしハードルは低くない。一時的に利益が下がった程度では足りず、株主・取引先・金融機関との関係上、報酬を下げざるを得ない客観的な事情が求められます。資金繰りの悪化で取引銀行から経費削減を求められた、といったケースです。
減額するなら、その理由を議事録に具体的に残してください。「業績悪化により○○のため、令和○年○月支給分から月額○○円に減額する」と書く。これが後で効きます。
段階的変更や役員賞与(事前確定届出給与)の取扱い
年度内に何度も金額を変える段階的変更は、定期同額給与の同額要件から外れやすく、損金算入の面でリスクが高い。原則は年1回の改定でまとめるのが安全です。
賞与を払いたいなら事前確定届出給与を使います。これは届出が命。所定の期限までに「事前確定届出給与に関する届出書」を出さないと、賞与が全額損金不算入になります。届出内容と議事録の金額・支給日は必ず一致させてください。
【独自試算】役員報酬を変更すると税金と社会保険料はどう変わる
ここは競合があまり踏み込んでいない部分。私自身が自分の会社で試算してきた考え方を、具体的なモデルで示します。なお、ここで使う税率は一般的なモデル試算であり、正確な数値はご自身の状況で顧問税理士に確認してください。

変更前後の法人税・所得税への影響シミュレーション
役員報酬を上げると、その分が会社の損金になって法人の利益が減ります。一方で個人の所得が増え、所得税・住民税が増える。会社の節税と個人の増税が綱引きになるイメージです。
考え方を整理した表が下です。金額は構造を示すためのモデルで、実際の税額は各社の状況で変わります。
| 変更 | 会社側の影響 | 個人側の影響 | 社会保険料 |
|---|---|---|---|
| 増額 | 損金が増え法人税の対象利益が減る | 所得税・住民税が増える | 会社・本人とも増える可能性 |
| 減額 | 損金が減り法人の利益が増える | 所得税・住民税が減る | 会社・本人とも減る可能性 |
| 据え置き | 変動なし | 変動なし | 変動なし |
私の実感では、報酬を上げすぎると社会保険料の増加がボディブローのように効きます。法人税が減って喜んだら、社会保険料と所得税で取り返されていた、というのはよくある話です。
標準報酬月額の改定と随時改定(月額変更届)の連動
役員報酬を変えると社会保険にも波及します。固定的賃金が変わり、変動後3か月の報酬の平均で標準報酬月額が2等級以上動くと、随時改定の対象になります。
その場合、年金事務所へ「月額変更届」を提出します。役員報酬の議事録だけで終わりにせず、この手続きまでがワンセット。ここを忘れると保険料の計算がずれます。
損金不算入になった場合の追徴課税シミュレーション
否認されると何が起きるか。たとえば3か月ルールを外して増額した差額が損金不算入になると、その金額に法人税がかかり直します。加えて延滞税や過少申告加算税が乗ることもあります。
つまり「上げた報酬には所得税・社会保険料がかかる」のに「会社の損金にはならない」という最悪の二重取りが起こりうる。手取りを増やすつもりが、トータルで損をする構図です。だから3か月ルールは死守してください。
非常勤役員・使用人兼務役員など特殊なケース
非常勤役員や監査役の報酬も、定款または株主総会の決議で定めます。会社法361条・387条の枠内です。金額が小さくても議事録の対象から外れません。
使用人兼務役員は少し複雑。役員としての報酬部分は定期同額給与のルールに従い、使用人としての給与部分は通常の給与として扱う、という二本立ての整理になります。混同すると税務上の判断を誤るので、内訳を明確にしておくのが安全です。
役員報酬を変更しない場合でも議事録を残すべき理由
意外と知られていないのが、据え置くときも議事録を作るべきだという点。私は変えない年も必ず作ります。理由は3つあります。

税務調査への対策と定期同額給与の証明になる
税務調査では、役員報酬が定期同額給与の要件を満たしているかを見られます。議事録があれば「いくらで・いつから支給すると決めたか」を即答できる。これが調査対策になります。
据え置きの議事録は、前事業年度と同額で継続したことの証拠です。決議のない支給は「お手盛り」を疑われる余地が残るので、毎期残しておくのが堅実です。
「前年度と同じだから決議不要」は法的根拠がない
はっきり言いますが、「前年と同じ金額だから決議は要らない」という考えに法的根拠はありません。会社法361条は報酬を株主総会または定款で定めると規定しているだけで、据え置きを例外扱いしていないからです。
総額の枠を一度決めておけば毎年の総額決議を省ける運用はありますが、それは枠を決めた議事録があってこそ。何の記録もないのに「同じだからいい」は通りません。
議事録の作成漏れ・不備によるペナルティ
議事録の作成や備置きを怠ると、会社法上の過料の対象になりえます。さらに税務面では、決議や記録が曖昧だと定期同額給与の証明が弱くなり、損金算入を争われたときに不利になります。
作るのは15分の作業。それを惜しんで追徴課税のリスクを抱えるのは割に合いません。私はここで一度痛い思いをしたので、今は徹底しています。
役員報酬・議事録・株主総会に関するよくある質問

最後に、読者からよく一緒に調べられる疑問に答えます。根拠は会社法と国税庁の取扱いです。

よくある質問
役員報酬の変更は、決議と議事録さえ押さえれば怖くありません。逆にここを雑にすると、節税のつもりが追徴で取り返される。今日のうちに、自社の事業年度開始日と3か月以内の期限だけは確認しておいてください。
